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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)49号 判決

埼玉県朝霞市朝志ケ丘一丁目二番一-一三〇七号

上告人

小川佳久

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 高島章

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行ケ)第二二四号審決取消請求事件について、同裁判所が平成五年一二月二一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はなく、右違法のあることを前提とする所論違憲の主張も失当である。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

(平成六年(行ツ)第四九号 上告人 小川佳久)

上告人の上告理由

一. 上告の理由を述べるにあたり、原判決の項目の目次を下記に記した。なお、原判決により表現された原審の取消事由の項とその取消事由に対して原判決がした判断の項は、対照できるように、表にして左項と右項に配置した。

また、2.に原判決中の誤記とみられるものの正誤を下記に示し、

3.に原判決記載の「一 判断の基礎となる事実」について記載した。

1.原判決の項目目次

『主文 (1頁12~14行)』

『事実及び理由 (1頁~60頁)』

「第一 原告の請求 (1頁16~19行)」

「第二 事案の概要 (2頁~34頁)」

「一 判断の基礎となる事実 (2頁~15頁)

1 特許庁における手続の経緯 (2頁~3頁)

2 本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項) (3頁7~17行)

3 審決の理由の要点(1)(2)(3)(4)(5) (3頁~11頁)

4 本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果に係る本願明細書の記載(1)(2)(3) (11頁~14頁)

5 引用例(昭和40年実用新案登録出願公告第595号公報)記載のものの技術的課題(目的)、構成及び作用効果に係る引用例の記載(1)(2)(3) (14頁~15頁)」

原判決が表現した原審取消事由 左項の取消事由に対する原判決の判断

「二 主要な争点(15頁~34頁) 「第三 争点に対する判断(34頁~59頁)」

1 一致点の認定の誤り(取消事由1)(15頁~17頁) 「一 取消事由1について(34頁~37頁)」

2 相違点の看過(原判決が看過の問題として扱っている相違点について、原告は相違点の判断の誤りも主張している。)(取消事由2) 二 取消事由2について

(1) 回転体等がおおわれるか否か、放射状の翼12の有無に関し(17頁~18頁) 1 取消事由2(1)について(37頁~38頁)

(2) (1)の構成の違いと水流の形態の違いに関し。(18頁~20頁) 二2 取消事由2(2)について(38頁~43頁)」(注:この項が、原判決中度々引用されている二2である。)

3相違点の判断の誤り(取消事由3) 「三 取消事由3について

(1) 本願発明の要旨認定の誤り(20頁~23頁) 1 取消事由3(1)について(43頁~45頁)

(2) 引用例記載のものの技術内容の誤認(23頁~24頁) 2 取消事由3(2)について(45頁~46頁)

(3) 本願発明と引用例記載のものとの技術思想の差異を看過した審決の誤り〈1〉〈2〉(24頁~28頁) 3 取消事由3(3)について(46頁~49頁)

(4) 引用例記載のものと周知技術とを結合する際の判断の誤り〈1〉〈2〉(28頁~31頁) 4 取消事由3(4)について(49頁~52頁)

(5) 引用例記載のものから本願発明の構成が容易に想到しえたとした判断の誤り(31頁~32頁)」 5 取消事由3(5)について(52頁~53頁)」

4 本願発明の奏する作用効果の看過(原告は相違点の判断の誤りも主張)(取消事由4)(32頁~33頁) 「四 取消事由4について(53頁~54頁)」

5 手続違背(取消事由5)(34頁1~12行)」 「五 取消事由5について(54頁~59頁)」

「上記の判断を加えた取消事由を言い換えたもの、又は明示的に判断するまでもないもの」と原判決が言う争点。(59頁14~19行) 「六 「上記の判断を加えた取消事由を言い換えた失当なもの、又は明示的に判断するまでもない」旨の判断。(59頁14~19行)」

「七 結論(60頁1~2行)

別紙第一 本願特願昭54-117405号の第1図及び第2図。

別紙第二 引用例実公昭40-595号の図面。

2.原判決中の誤記とみられるもの

該当箇所 正しい記載及びコメント。

1) 3頁17行の「洗濯層」 「洗濯槽」 甲第1号証参照。

2) 6頁16行の「洗濯層」 「洗濯槽」 甲第1号証参照。

3) 7頁2行の「洗濯層の中心」 審決書6頁18行では「洗濯機の中心」となっているが、正しくは本願発明では「洗濯槽の中心」である。甲第2号証・準備書面(五)52頁2行~54頁2行参照。

4) 9頁16行の「洗濯機の中央」 「洗濯槽の中央」甲第2号証等。

5) 11頁13~14行の「不要な記載を削除するにすぎない」 「不要な記載を単に削除するにすぎない」甲第1号証。

3. 原判決の「一 判断の基礎となる事実」の項の冒頭には、2頁10~12行に括弧書きで、

(特に証拠(本判決中に引用する書証は、いずれも成立に争いがない。)を掲げた事実のほかは当事者間に争いがない。)と記載されているが、

原判決の「一 判断の基礎となる事実(2頁~15頁)」の項中には、上記の誤記を含め、他にも、判断の基礎となる事実を必ずしも誤解を招かない程度に正確に反映しているか問題のある表現や要約があるので、本理由書における原告の主張との間で問題となる場合は、証拠及び訴状・準備書面等の原審関係書類を参照されたい。証拠とちがっている問題もある。

上記の通り原判決の「一 判断の基礎となる事実」の中には、争いや誤りがあるのは、

「4 本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果に係る本願明細書の記載(11頁~14頁)」、

「5 引用例(昭和40年実用新案登録出願公告第595号公報)記載のものの技術的課題(目的)、構成及び作用効果に係る引用例の記載

(14頁~15頁)」

だけでなく、証拠を掲げてあるものにも掲げていないものにも争いや誤りがあることを留意されたい。

原判決の「一 判断の基礎となる事実」に記載の事実には、以下の第1~8点で論じる如く、争いや誤りがあるので、本理由書の原告の主張との間で問題となる場合は証拠及び訴状・準備書面等の原審関係書類を参照されたい。

二. 以下に、第1~8点の上告の理由を述べる。

第1点 (7頁~13頁)

第2点 (13頁~ )

第2点の1 (14頁~24頁・別紙イロハ)

第2点の2 (25頁~29頁)

第3点 1.2.3.4. (29頁~37頁)

第4点 (37頁~37頁)

第5点 (38頁~39頁)

第6点 (39頁~41頁)

第7点 (41頁~47頁)

第8点 (47頁~49頁)

(巻末に別紙イ・図A・図B、別紙ロ・図C・図D、別紙ハ・図E・図F。)

原告は第2点で、原判決の

「二1 取消事由2(1)について(37頁~38頁)」、

「二2 取消事由2(2)について(38頁~43頁)」及び、

「三3 取消事由3(3)について(46頁~49頁)」に対して、

本願発明と引用例の構成の比較における

〈1〉本願発明の回転体又は引用例の羽根車が上方も側方も実質的にオープンか否か、おおわれているか否かの違いや

〈2〉放射状の翼12(回転運動を妨げる構造物)の有無の違い、

〈3〉構成の違い(主に〈1〉〈2〉の構成の違い)による洗濯水流の違い、等の

審決の構成上の相違点の看過及び構成上の相違点の判断の誤りを原判決が否定する過程で

共通に示されている理由齟齬、証拠の評価の経験則違反、理由不備を指摘するが、

それに先立ち、第1点では、原告が原審において、本願発明と引用例の構成の比較における構成上の相違点の主張及び構成上の相違点の判断の誤りの主張をしていることを論じることについて若干の説明する。

すなわち、原告は、原審において、本願発明と引用例の構成の比較に関して審決における構成上の相違点の看過の主張だけでなく、構成上の相違点の誤認の主張及び構成上の相違点の判断の誤りの主張をしている。

これに対し、原判決は、相違点の看過の主張に理由がないとする判断・理由を「二2 取消事由2(2)について」で示しているが、

「二1 取消事由2(2)について」は〈3〉の構成の違いによる洗濯水流の違い、を扱っており、この〈3〉の構成の違いは「二1 取消事由2(1)について」でも扱われている〈1〉〈2〉の構成の違いであり、

結局、「二2 取消事由2(2)について」は〈1〉〈2〉〈3〉の構成の違いに関して相違点の看過の主張に理由がないとする判断・理由を示しており、

原判決はこの二2を、

「3 相違点の判断の誤り(取消事由3)」に対する原判決の判断の

多くの項における取消事由を否定する理由に下記の如く引用している。また、この二2を取消事由を否定する理由の前提にしている。

すなわち「3 相違点の判断の誤り(取消事由3)」に対する判断の

「三1 取消事由3(1)について」の43頁19行~、

「三3 取消事由3(3)(=本願発明と引用例記載のものとの技術思想の差異を看過した審決の誤り)について」の46頁18行~、

「三1 取消事由3(5)について」の53頁3~5行、等に

引用され又は前提にされている。

なお、作用効果の看過の「四 取消事由4について」の54頁1~4行でも二2を取消事由を否定する理由の前提にしている。

また、原判決は、「三3 取消事由3(3)について」の項中の47頁5~13行で、放射状の翼12に関し、原告が構成上の相違点の看過を主張し相違点の判断の誤りを主張していないかの如く述べている。

従って、原告は下記の第1点において、原告が原審において、原判決は、本願発明と引用例の構成の比較における

〈1〉本願発明の回転体又は引用例の羽根車が上方も側方も実質的にオープンであるか否か、おおわれているか否かの違いや、

〈2〉放射状の翼12(回転運動を妨げる構造物)の有無の違い、

〈3〉構成の違い(主に〈1〉〈2〉の構成の違い)による洗濯水流の違い、等の

構成上の相違点の誤認の主張及び構成上の相違点の判断の誤りの主張をしていることを論じる。

第1点(理由不備、審理不尽)

1. 原判決は、「2 相違点の看過(取消事由2)(1)(17頁~18頁)」とある項中の17頁17行~18頁4行で、

「したがって、本願発明の柱は回転体をおおっていないのに対し、引用例記載のものにおいては、洗濯槽に、その中央に設けられた羽根車7をおおうように、下側周縁に複数の放射状の翼12を備えた円錐台状の案内具10を脱水槽1に固定、取付けたものである点で相違するのに、審決は、このような重要な構成上の相違点を看過している。」と原審決の取消事由を表現したうえ、

「1 取消事由2(1)について(37頁~38頁)」の項の末尾の

38頁12~17行で、

「審決に原告主張の構成上の相違点の看過はない(なお、引用例記載のものの案内具10は本願発明の柱と同じく筒状のものであることは、前記一において認定したとうりである。)。したがって、審決には原告が取消事由2(1)において主張する相違点の看過はない。」と判断を示している。

そして、更に、原判決の「3 相違点の判断の誤り(20頁~32頁)」に関する「三 取消事由3について(43頁~53頁)」の項中には、

47頁5~13行で

「なお、原告は、引用例記載のものにおいて回転水流の回転運動を妨げる構造物が羽根車の側面にあることを主張しており、その趣旨は審決がこの点を看過していることを主張するものと解されるが、審決は、「引用例記載のものは、翼12を設けているのでこれを設けない場合と同等ではないとしても、中心部にそれ相応の渦巻水流が発生するものと認められる。」と認定しているのであるから、この点をも考慮のうえ判断を導いていることが明らかであり、審決に上記の点に関する看過はない。」と述べて、

構成上の相違点の看過の有無について判断を示しているが、原告が主張している放射状の翼12に関する構成上の相違点の判断の誤りの主張について判断・理由は示されていない。

原告は準備書面(一)~(七)・補正書(1)~(4)で、上記〈1〉の回転体又は羽根車がおおわれているか否かに関する構成上の相違点の判断の誤りの主張と共に、〈2〉の放射状の翼12に関する構成上の相違点の判断の誤りをも主張しているのであります。

すなわち、準備書面(一)34頁3~17行で、

『引用例は、上記の如く、羽根車で直接掻回す「渦巻水流」は発生していないにもかかわらず、審決理由は(当審の判断)の項(1)で、上記に続き、

「(8頁10~14行)引用発明は、翼12を設けているのでこれを設けない場合と同等ではないとしても、中心部にそれ相応の渦巻水流が発生するものと認められる。」と認定している。

(10-1) しかしながら、「中心部」が円錐台状の案内具と「複数の放射状の翼」で囲まれた空間内のことであるなら、この空間内の水が羽根車で直接掻回されていても、洗濯水流が渦巻水流というわけではないから誤りである。

また、「中心部」がこの空間外であるとすれば、(3)項で明らかな如く、この空間外の水流は「羽根車で直接掻回されて発生する渦巻水流」ではないから誤りである。本件においては、渦巻式洗濯機の回転翼がオープンな状態で回転して洗濯槽内の水を直接掻回して発生する渦巻水流によって“もみ洗い”する洗濯方式に避けられない当該渦巻水流による絡み合いを防止しようとするものであるから、「中心部にそれ相応の渦巻水流が発生するものと認められる。」と言って、進歩性の否定の理由とするのは誤りである。』

と記載して、原告は、放射状の翼12に関し、審決に、構成上の相違点の看過は無いが、構成上の相違点の判断の誤りがある主張をもしているのであります。

しかるに、〈2〉の放射状の翼12の有無に関する構成上の相違点の判断の誤りの原告主張について判断・理由を示さないのは理由不備の違法がある。

また、原告が準備書面(一)で上記の如く主張し、且つ準備手続裁判官殿の主張に整理のご釈明に対し、本人訴訟の原告が、準備書面(四)(五)で二度に渡り、当該準備手続における「争点の整理の状況」の教示を求めたのであるから、それにもかかわらず、原告が構成上の相違点の判断の誤りがある主張をしているのに判断・理由を示さないのは、審理不尽の違法がある。

原告は、更に、準備書面(四)7頁8行~8頁4行で、

「 そして、各々の構成要素の協働同関において、

…中略 …引用例が羽根車7を「下側周縁に複数の放射線の翼12を備えた円錐台状の案内具10」でおおって、

羽根車7の回転によって羽根車7の周囲に生じようとする水流の回転運動を、

羽根車7の側面を放射状に取囲んで分断する翼12で妨げ、羽根車で直接掻回されて生じる渦巻水流の発生を阻止し…中略

との主張・立証、に反して、審決は引用例を以下の如く認定している。

すなわち、…中略 …の「案内具の下側周縁の数枚の放射状の翼12の作用で、水流の放射線に対する角度は20~30°まで弱められ……たたき付ける水流を発生させる」、の意味が、水流の放射線に対する角度を調整する(整流する)作用をなすにすぎないという趣旨に誤認している(審決7頁16~18行)。

この誤認は相違点の判断を誤り、審決の結論を誤る違法がある。 」

と記載して、

原告は、上記の〈1〉の回転体又は羽根車がおおわれているか否か及び〈2〉の放射状の翼12の有無に関する構成上の相違点の判断の誤りについて主張している。

なお、準備書面(四)8頁16~22行で、

「なお、審決には、どういう訳か、上記の引用例中の「翼12の作用で、水流の放射線に対する角度は20~30°…」に関する箇所が6頁2~3行のハ.とニ.の間にはないが、他方で、(当審の判断)の項の7頁16~18行で「引用発明の翼12は、……水流の放射線に対する角度を調整する(整流する)作用をなす…」と記載しており、すなわち当該箇所の語句を用いて当該箇所に対する評価をしている。従って、当該箇所について、審決の判断が経由されている。」

ことを付記している。

更に、準備書面(六)12頁1行~18行で、

「従って、このような「案内具10が(放射状の翼12を下側周縁に備えて、)羽根車7をおおう或いはおおうように脱水槽1に固定・取付けされる構成要件」は、運動体の羽根車7が案内具10や放射状の翼12と実効的に配置されること、その一部としての放射状の翼12を羽根車7の側面に配置することを実現する構成であり、

それによって、洗濯物をたたき付ける課題・作用効果、内壁に触れさせる課題・作用効果のための「たたき付ける水流および洗濯物が円周方向に流される流れ」を発生させるもので、

本願発明の回転体が上方も側方も実質的にオープンで柱におおわれず(且つ妨げる構造物が側面近傍に無い状態で、)、洗濯槽内の水を上方も側方も直接掻回して渦巻きの洗濯水流を発生し、柱の設置はそのような回転体の水流発生の回転条件を妨げないどころか向上させる本願発明の構成との間に、

容易推考性を認めることは、矛盾があり、審決の判断を誤らせており、結論を誤らせているから、

発明の構成の対比に挙げられていなければ、

相違点の看過となり、審決に違法がある。

挙げられていれば、一致点・相違点の誤認として判断、結論を誤らせる違法がある。」と記載して、

〈1〉の回転体又は羽根車が上方も側方も実質的にオープンでおおわれているか否か、及び〈2〉の放射状の翼12に関する構成上の相違点の判断の誤りをも(相違点の看過と共に、)主張している。

そして、引用例の放射状の翼12は、引用例の課題・作用である洗濯物を脱水槽1の内壁に「たたき付ける水流」を発生させる必須の構成であり、引用例の羽根車7が案内具10でおおわれている(羽根車7の上全体に案内具10がかぶさっている)と共に、本願発明には無い、引用例に特徴的な構成要件である(甲第9号証。準備書面(一)~(七)。)。

従って、上記の如く、原判決は、引用例に回転水流の回転運動を妨げる構造物が羽根車の側面にあることすなわち〈2〉の放射状の翼12の有無に関する構成上の相違点の判断の誤りの原告主張について判断・理由を示していず、理由不備の違法があり(民事訴訟法第395条第1項第6号)、原判決は破棄を免れない。

また、上記の如く、本人訴訟の原告が、準備書面(四)(五)で二度に渡り、当該準備手続における「争点の整理の状況」の教示をを求めたのであるから、それにもかかわらず、原告が放射状の翼12に関し構成上の相違点の判断の誤りがある主張をしているのに判断・理由を示さない、又は放射状の翼12に関し構成上の相違点の判断の誤りがある主張をしているのを認めないのは、判決に影響を及ぼすこと明らかな重要な主張に関し審理不尽の違法がある(民事訴訟法394条)。なお、原判決59頁六項は包括的にしか記載されていず、これ等の瑕疵を補っていない。

相違点の看過の主張に対する反論は看過されていない主張・理由だが、相違点の判断の誤りの主張に対してはそれだけでは足りない。

なお、〈1〉の回転体又は羽根車が上方も側方も実質的にオープンか否か、おおわれているか否か、に関する構成上の相違点の判断の誤りの原告主張に対する、原判決の判断・理由の誤りは第2点で、〈3〉の構成・水流の論点の中で論じる。

2. 原判決は、「2 相違点の看過(取消事由2)(2)(18頁~20頁)」とある項の末尾の19頁18行~20頁1行で、

「審決は、両者はこのような構成の違いから水流発生の形態を異にするものであるという相違点を看過している。」と原審の取消事由を表現しながら、

「2 取消事由2(2)について(38頁~43頁)」の項において、

本願発明の特許請求の範囲第1項の「オープンな」の解釈における、後述の如く理由の齟齬・経験則違反がある判断・理由を示し、

末尾の43頁8~10行で、

「したがって、本願発明と引用例記載のものとの構成の違いから両者は発生する水流の形態が異なるとする取消事由2(2)の主張は失当というほかはない。」としている。

従って、結局、原判決は「2 取消事由2(2)について」の項で、原告が、構成・水流に関する相違点の看過だけでなく、上記〈3〉の構成・水流に関する相違点の判断の誤りも主張していることを認めているようであるが、

事実、原告は、原審において、下記の通り、構成・水流に関する相違点の看過だけでなく、〈3〉の構成の違い(〈1〉〈2〉の構成の違い)による洗濯水流の違いに関する相違点の判断の誤りも主張してある(なお、本願発明においては特許請求の範囲第1項記載の通り水流も発明の構成である。)。

原告は、準備書面(六)11頁9行~12頁18行で、

「従って、柱・案内具が回転体などをおおうか否か(そして、放射状の翼12が在るか無いか、放射状の翼12が案内具10の下側周縁に備えられているか否かも)は、水流の相違点の看過に関する本準備書面二.項の如く、

一方、

本願発明の渦巻水流を妨げずに(向上させ)…中略 …洗濯槽内の上方の水も側方の水も回転体で直接掻回されて発生する渦巻きの洗濯水流(渦巻式渦巻水流)の発生にかかわり、

柱が回転体をおおわないこと(オープン)は発明の構成自体にかかる要件である。

そして、他方、円錐台状の案内具10が羽根車7をおおうように脱水槽1に固定・取付けされることは、

引用例の洗濯物を脱水槽1にたたき付ける課題・作用効果や洗濯物を脱水槽1の内壁や翼13に触れさせる課題・作用効果にかかわり、…中略

…、必須の構成で、発明の構成自体にかかる要件である。

…中略…(12頁9行~)

本願発明の回転体が上方も側方も実質的にオープンで柱におおわれず(且つ妨げる構造物が側面近傍に無い状態で、)、洗濯槽内の水を上方も側方も直接掻回して渦巻の洗濯水流を発生し、柱の設置はそのような回転体の水流発生の回転条件を妨げないどころか向上させる本願発明の構成との間に、

容易推考性を認めることは、矛盾があり、審決の判断を誤らせており、結論を誤らせているから、

発明の構成の対比の相違点に挙げられていなければ、

相違点の看過となり、審決に違法がある。

挙げられていれば、一致点・相違点の誤認として判断、結論を誤らせる違法がある。」と記載し、

本願発明が、原判決が言うように「単に回転体の側方に位置する洗濯機の水にに対して開放されているだけの場合を含んでいる」ことはなく、

本願発明の回転体が回転体の上方も側方も実質的にオープンで柱におおわれないことを主張し、引用例の羽根車7が円錐台状の案内具10におおわれていることとの相違点の判断の誤りを主張してある。

且つ、準備書面(七)と共に口頭弁論に提出・陳述された、

準備書面(七)の補正書(4)の2頁3~10行の

『 1. 準備書面(七)の8頁22行の「…問題となるのであります。」の次に、「第6回準備手続期日に被告の最終的な釈明回答があった回転体と柱、羽根車と案内具の配置関係と密接に関連する水流の相違点についても、審決理由7頁7~13行の発明の構成の対比の「相違点:」の文章を見ても水流の相違点についての記載は認められない(相違点の看過)が、もし記載されているとされても、準備書面(一)~(六)のように、「相違点の誤認」があり「判断の誤り」があり、或いは「相違点の誤認」がないとされてもやはり「判断の誤り」があり、審決は違法となる。」を挿入する。 』

の通り、準備書面(一)~(七)及び補正書(4)で、水流に関し相違点の判断の誤りを主張している。

従って、原判決の上記の「2 取消事由2(2)について」が、相違点の看過の主張に対する判断のみで、相違点の判断の誤りの主張に対する判断を示していないのであれば、理由不備の違法があり原判決は破棄を免がれない。相違点の判断の誤りの主張に対する判断も示しているとすれば、上記の如く「2 取消事由2(2)について」には理由の齟齬・経験則違反の違法がありやはり原判決は破棄を免がれない。

他の事項に関しても、原告は準備書面(一)~(七)・補正書(1)~(4)で看過の無い相違点の誤認、看過・誤認のない相違点の判断の誤り、看過はないが誤認のある相違点の判断の誤り、等を主張しているのに、原判決は、それ等の事項に関する看過の主張のみに言及したり、それ等の事項に関する原告の主張を誤って看過の主張と見なしている。

第2点(第2点の1、第2点の2。理由齟齬。経験則違反。)

原判決には、特許請求の範囲第1項の「オープンな」の文言に関し、下記の如く、判決に影響を及ぼすことが明らかな理由の齟齬があり、重大な法令違背といわねばならない(民事訴訟法395条第1項第6号)。

原判決には、特許請求の範囲第1項の「オープンな」の文言に関し、証拠の評価につき下記の如く判決に影響を及ぼすことが明らかな重大な経験則の違反があるといわねばならない(民事訴訟法394条、同法185条)。

原告は、原判決の「二1 取消事由2(1)について(37頁~38頁)」、

「二2 取消事由2(2)について(38頁~43頁)」及び

「三3 取消事由3(3)について(46頁~49頁)」、に対して、

〈1〉本願発明の回転体又は引用例の羽根車が上方も側方も実質的にオープンであるか否か、或いはおおわれているか否かの構成の違いや

〈2〉放射状の翼12の有無の構成の違い(回転体の回転によって回転体の周囲に発生しようとする回転水流の水平面の回転運動を妨げる構造物が回転体の側面近傍に無い状態か否かの構成の違い。)。

〈3〉構成の違い(主に〈1〉〈2〉の構成の違い)による洗濯水流の違いの構成の違い、等の

審決の構成上の相違点の看過及び構成上の相違点の判断の誤りを原判決が否定する過程で共通に示されている理由齟齬、経験則違反を以下に述べる。

なお、二2(原判決は46頁18行等で「二2 取消事由2(2)について」の項を二2と略記しているので、原告も同様の略記を用いる。)は、

〈3〉の構成の違いによる洗濯水流の違いに関する構成上の相違点の看過や構成上の相違点の判断の誤りを否定する判断・理由を示すのに際して、

〈3〉の構成の違いの内容が主に〈1〉〈2〉の構成の違いである関係上、

「二1 取消事由2(1)について」で挙げられている〈1〉〈2〉の構成の違いに関して構成上の相違点の看過や構成上の相違点の判断の誤りを否定する判断・理由を二2項中に記載しており、

かつ、原判決はそのような二2を、相違点の判断の誤りに関する取消事由3の(3)に対する原判決の判断を示す「三3 取消事由3(3)について」で審決取消事由を否定する理由に引用している。

従って、原判決が、審決の構成上の相違点の看過や構成上の相違点の判断の誤りを否定する判断・理由を示している二2項に対する、理由齟齬、証拠評価の経験則違反等の原告主張は、「二1 取消事由2(1)について」及び

「三3 取消事由3(3)について」に対しても該当する。

なお、第2点は、二2項における理由齟齬及び経験則違反の内容から、第2点の1と第2点の2に分けて論じる。

第2点の1(理由齟齬。経験則違背。)

1.イ) 原判決は「2 相違点の看過(取消事由2)」と称する取消事由2に対する原判決の判断である「二2 取消事由2(2)について」の項の

38頁19行~39頁11行で、

「 取消事由2(2)における原告の主張の趣旨は、本願発明は、回転体が……上方に対してもオープンな状態で回転することを要旨とし、したがって、本願発明では、回転体は……上方の水に対しても開放されているため、回転の影響が回転体の上方の水にも及ぶのに対し、引用例記載のものは羽根車の上方が脱水槽に固定、取付けられた案内具によって覆われ、側方には複数の放射状の翼があるから、その回転の影響は上方の水に及ぶことがなく、また、側方においては、複数の放射状の翼によって流れの方向が規制される点(注1)で、水流の形態が相違するという点にあると解される。」と述べている。

[注1: ここに「複数の放射状の翼によって流れの方向が規制される点」というのは表現が抽象的だが、取消事由2(2)すなわち、原判決の「2 相違点の看過(取消事由2)(1)(2)」の(2)項中の19頁6~15行の

「引用例記載のものは、羽根車と水を円錐台状の案内具と複数の放射状の翼で囲まれた空間内に入れ、…中略…羽根車といっしょに回転して、回転しながら羽根車から放出される回転運動水流の回転運動を阻止して、…中略…洗濯物を洗濯槽の壁にたたき付ける水流を作り出し」の箇所に該当している。

また、「2 相違点の看過(取消事由2)(1)(2)」の(1)項中の18頁10~16行の「引用例記載のものにおいては、…中略…側方の洗濯槽内の水に対する羽根車の回転の影響は放射状の翼12によって阻止される」の箇所にも該当している。]

1.ロ) 原判決は、以上の如く取消事由2(1)(2)を表現した上、

構成上の相違点の看過や構成上の相違点の判断の誤りの取消事由を否定する理由として、41頁10行~43頁10行で、

「 そして、後者の記載及び上記第2図(注2)からは、柱の付根付近、すなわち同図において円錐状柱2’の実線により図示された部分には隙間がないことが窺われる。同図上この部分の外周付近は概ね回転体(注3)の外周縁の上方に位置しているから、回転体は柱の実線によって図示された部分までの間において遮蔽されている、すなわち洗濯槽内に設置された柱によりおおわれている、と認めて差支えない。ところで、同図から明らかなとうり、回転体と円錐状柱2’底部付近との間隔は比較的小さいから、実施例の構成によっては、回転体の回転の影響が直ちに直接回転体の上方の水に及ぶことはなく、したがって回転体がその上方の水に対しては実質的に開放されていない場合、つまり、本願発明における回転体が洗濯槽内の水を掻き回しても、回転体が作り出す流れの大部分が回転体の横方向の流れであり、回転体の上方への流れは極めてわずかである場合がありうることが認められる。そうすると、本願発明の構成によっては上方への流れはできず、単に回転体の横方向の流れが洗濯槽の側壁に当って向きを変えた流れによって上方への流れができるにすぎない場合があることを否定することができない。

以上のとうりであるから、本願発明の特許請求の範囲第1項の「回転体を洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言は、単に回転体の側方に対して開放されているだけの場合をも含んでいるというべきであり、この文言を、回転体の上方の水に対しても開放されている場合でなければならない、とあえて限定して解すべき根拠はない。…中略…

したがって、本願発明と引用例記載のものとの構成の違いから両者は発生する洗濯槽内の水流の形態が異なるとする取消事由2(2)の主張は失当というほかはない。」と記載している。

この判断・理由には以下の如く理由齟齬、経験則違背がある。

[注2: 第2図は、本願の主発明の特許請求の範囲第1項の実施態様項の第2項「柱が、洗濯槽内に設置された壁および底に隙間が多く、水が自由に通過でき、洗濯槽内で底がつっかえないように水に浮き、洗濯槽の内接円より少し小さい直径の円筒状の容器の底の中央が隆起したものであるところの特許請求の範囲第1項記載の洗濯機。」の実施例である。甲第2号証・甲第4号証。]

[注3:本願発明の洗濯機における“回転体”とは「発明の詳細な説明の欄」から明らかな如く日本国内で一般的な渦巻式洗濯機における「水をかき回す回転体(甲第2号証1頁1欄16~18行)」であり、いわゆる回転翼またはパルセータと呼ばれる通常、円盤状で翼や凹凸を備えて水をかき回すものである。]

1.ハ) 上記、原判決の記載中には、

「(41頁11~14行)同図において円錐状柱2’の実線により図示された部分には隙間がないことが窺われる。同図上この部分の外周付近は概ね回転体の外周縁の上方に位置している」、と記載されている。

従って、上記「この部分の外周付近」の「この部分」とは「実線により図示された部分」である。

従って、41頁13行の「この部分の外周付近」とは、「実線により図示された部分の外周付近」となる。

他方、原判決は、48頁11~15行で、「引用例記載のものの実施例を示す別紙第二の図面において、案内具10の底面は、中央付近では通路11として解放されており、また羽根車7の外周付近からは徐々に上方に広がって逆円錐状を呈しており、」と記載し、同じ「の外周付近」の語句を用いている。

なお、上記の(別紙第一の)第2図とは甲第4号証の第2図(本願発明の実施例の一つ)を約0.8倍縮小したものであり、上記の別紙第二図の図面とは甲第9号証の図面(引用例の実施例)を約1.2倍拡大したものである。

上告人(原告)は、本理由書の別紙イに甲第4号証の第2図及び甲第9号証の図面の等倍図(本願第2図及び引用例図面〉を添附した。

更に、別紙ロに、本願の回転体6と引用例の羽根車7の直径が、共に18cmになるように拡大した甲第4号証の第2図の部分拡大図(図C)及び甲第9号証の図面の部分拡大図(図D)を添附したので参照されたい。

日本国内において洗濯機の槽底に水をかき回す回転体(=回転翼又はパルセータ)を備える渦巻式洗濯機は従来から一般的であり、家庭や小売店で見られる渦巻式洗濯機の実物大として、直径18cmの回転体は普通か小さい方で、大き過ぎることはない。

別紙ハについては後述する。

本理由書の別紙ロの図D(=原判決の別紙第二の図面の拡大図)と、

上記、原判決48頁11~15行中の「引用例記載のものの実施例を示す別紙第二の図面において、案内具10の底面は、……羽根車7の外周付近からは徐々に上方に広がって」の記載、から明らかな如く、

同図中、「徐々に上方に広がって」いるのは、「の外周付近」の前についている「羽根車7」ではなく「案内具10の底面(の周縁)」であるから、

「羽根車7の外周付近」における「の外周付近」の語句は、

原判決の理由に於いて、「の外周付近」の前に付いているものの部分を指示するものとして用いられていない。すなわち、「の外周付近」の前に付いているものではない外側を指示している。

従って、前述の原判決41頁13行の「この部分の外周付近」

=「実線により図示された部分の外周付近」が指示する位置は、

「実線により図示された部分ではない外側」ということになり、

本理由書別紙ロ図C=原判決別紙第一の第2図、及び本願特許請求の範囲第2項から明かな如く、

「実線で示されている柱2’ではない外測」即ち「点々で示された底3の一部(注4)」ということになる。

[注4: 点々の並びの曲線部分も底3の一部である。準備書面(五)別紙第10図及び26~27頁。]

そして、上記の原判決41頁12~14行には「同図(=第2図)上この部分の外周付近は概ね回転体の外周縁の上方に位置している」と記載されている。

従って、上記「回転体の外周縁」とは、

別紙ロ図C(=第2図)中、

「点々で示された底3の一部が上方に位置している(回転体6の)部分(注5、注6)」

=「実線により図示された部分」が上方に位置していない(回転体6の)部分、

=「実線によって図示された部分で遮蔽されていない(回転体6の)部分」、

=回転体6が実質的にオープンな部分、である。

[注5: 点々で示された底3は、隙間が多く水が自由に通過できる。甲第4号証3頁14行~4頁2行。特許請求の範囲第2項。]

[注6: 容器は、そしてその一部である底3は、水に浮いており、水の流れに従って自由に回転し、水は回転体の回転にしたがい底3に遮られることなく自由に流れることができる。すなわち、回転体によって発生する水流が実質的に妨げられない状態で、底3は回転体の上方に位置している。甲第4号証3頁14行~4頁2行。特許請求の範囲第2項。]

1.ニ) ところで、別紙イ図A(=甲第4号証の第2図自体)の如く、第2図の実測により該図中の「水をかき回す回転体」(=回転翼又はパルセータ)の直径は3cmであり、柱2’の付根付近の隙間の無い部分の最大直径は2.5cmである(原判決の別紙第一の第2図は、上記の通り甲第4号証の第2図の0.8倍の縮小図である。)

別紙ロ図Cは、縦断面図である甲第4号証第2図の6倍の部分拡大図であり、実物の洗濯機としてあり得る大きさの水をかき回す回転体の直径を18cmに描いた。そして、別紙ロ図Cの如く、本願発明の柱2’の付根付近の隙間の無い部分の最大直径は〈省略〉2.5cm×6=15cmとなる。

別紙ハ図Fは、上記の別紙ロ図Cに基づく図Eに基く平面図であり、

外側の直径18cmの円が水をかき回す回転体6の輪郭であり、

内側の直径15cmの円が隙間の無い部分の輪郭である。

従って、別紙ハ図Fの如く、水をかき回す回転体6は、内側の15cmの円より外側の部分は隙間の無い部分で遮蔽されていないのであるから、

本願の一つの実施例である第2図実施例における水を掻回す回転体6の実質的にオープンな部分は実物大では、例えば、〈省略〉の幅を有し、直径18cm~15cmの環状の大きな部分となる。

従って、上記の原判決41頁12~17行の

「同図上この部分の外周付近は概ね回転体の外周縁の上方に位置しているから、回転体は柱の実線によって図示された部分までの間において遮蔽されている、すなわち洗濯槽内に設置された柱によりおおわれている、と認めて差支えない。」には理由の齟齬がある。

けだし、“おおう”の語句の意味は、

広辞苑二判271頁・甲第21号証の通り、「露出するところがないように、ものごとが一面にかぶさる意。〈1〉上全体にかぶさる。〈2〉上からかぶせて隠す。〈3〉あまねくつつむ。〈4〉庇護する。かばう。保護する。〈5〉隠蔽する。つつみ隠す。〈6〉(光などがもれるのを)遮る。暗くする。」であり(準備書面(一)第11頁等)、

且、事実、引用例は“おおう”の文言通り、

すなわち、図面中に付した数字を用いる実用新案登録請求の範囲の「羽根車7を“おおう”ように… …円錐台状の案内具10を取付けた」の文言通り、

別紙ロ図D(=甲第9号証の引用例図面の部分拡大図)及び

原判決別紙第二の図面の如く、

円錐台状の案内具10は羽根車7の上全体にかぶさっているのである。

これに対し本願では実施例の一つの第2図実施例においても、水をかき回す回転体6は、別紙ロ図Cや別紙ハ図Fの如く、全体を遮蔽されてはいず、しかも回転直径が大きく、運動量が大きい、つまり水をかき回す能力の大きい「回転体の周部(注7)」が隙間の無い部分で遮蔽されていないのであるから、柱によりおおわれていないのである。

[注7: 回転体のより中心に近い部分を中央部と呼び、より縁に近い部分を周部と呼んでいる。準備書面(一)23頁。原判決が「回転体の外周縁」と呼ぶ部分はこの周部に対応することになろう。]

上記の原判決41頁12~17行は「同図上この部分の外周付近は概ね回転体の外周縁の上方に位置しているから、回転体は柱の実線によって図示された部分までの間において遮蔽されている、すなわち洗濯槽内に設置された柱によりおおわれている、と認めて差支えない。」と言うが、

上記の如く、「この部分の外周付近」とは柱2’の「実線により図示された部分ではない外側」であり、

かつ、「回転体の外周縁」とは、別紙ハ図F及び別紙ロ図C(=第2図)中、実物大の規模で、例えば幅1.5cm、直径18cm~15cmをも有する環状の部分(回転体の一部分)であり、

「回転体6の、柱2’の実線により図示された部分が上方に位置していない部分」すなわち回転体が実質的にオープンな部分の、「回転体6の周部」である。

付根付近直径15cmの柱2’の外に、直径18cmの回転体が1.5cm幅で360度全体に突き出ているのであります。

従って、原判決は、第2図実施例の回転体6において、

「柱2’の実線によって図示された部分で遮蔽されている部分」と、

「外周縁」=「柱2’の実線により図示された部分で遮蔽されていない部分」の両方を認めていながら、すなわち、

一方、柱2’が回転体6の上全体を遮蔽していない(柱は回転体の上全体にはかぶさっていない、しかも水をかき回す能力の大きい外周縁が遮蔽されていない)ことを認めながら、

他方、回転体6が柱によりおおわれている(=上全体にかぶさる。)と認めるのは、明白に理由の齟齬がある。

2. 更に、原判決には、重要な証拠である甲第2号証・甲第4号証の評価につき、以下の如く、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反がある(民事訴訟法394条、同法185条)。また、理由齟齬がある。

原判決の上記記載は41頁17行~42頁11行で、

「同図(第2図)から明らかなとうり、回転体と円錐状柱2’底部付近との間隔は比較的小さいから、実施例の構成によっては、回転体の回転の影響が直ちに直接回転体の上方の水に及ぶことはなく、したがって回転体がその上方の水に対しては実質的に開放されていない場合、つまり、本願発明における回転体が洗濯槽内の水を掻回しても、回転体が作り出す流れの大部分が回転体の横方向の流れであり、回転体の上方への流れは極めてわずかである場合がありうることが認められる。そうすると、本願発明の構成によっても、回転体の回転が直接上方の水に影響するという理由によって上方への流れができず、単に回転体の横方向の流れが出来るにすぎない場合があることを否定することができない。」と言う。

しかしながら、洗濯機の縦断面図である第2図中、洗濯槽の上層と底層の間を下降・上昇する流れは点線矢印で示されている縦方向の流れであり、原判決が上記に言う回転体が作り出す「横方向の流れ」とは点線矢印のうちの一部の回転体から洗濯槽周壁方向に横方向に向かう点線矢印の部分で表現されているものであるが、これは引用例における放射状の翼12の作用による直線的・噴流的な放射方向の水流ではなく、放射状の翼12が無い本願発明では回転体の回転による水平面の回転水流が回転しながら回転半径を広げる、その回転半径を広げる運動成分を表現しているのであり、縦方向の流れ、横方向(回転半径を広げる運動成分)の流れに加え、当然、回転体の回転による槽底面に平行な水平面の回転運動(円運動)の流れ(注8)があるのである。

[注8: 第2図中、水平面の回転運動の流れは、渦巻式洗濯機の渦巻水流が渦巻くすなわち水平面の回転運動もすることは当然であるから、渦巻式洗濯機に関する甲第29号証(実開昭49-6879)図面と同様に、それを示す矢印は省略されているに過ぎない。準備書面(二)3頁5~8行。]

上記原判決の41頁17行~42頁11行の記載は回転体が作り出す「水平面の回転運動(円運動)の流れ」の発生について経験則の違背をしている。

すなわち、第2図実施例は、実物大の規模では上記のような、例えば「直径18cm~15cmで1.5cmの幅を有する環状の実質的にオープンな部分」が、18cm~15cmもの回転運動直径を持って、モーターに駆動されて回転運動をする。

水をかき回す回転体の「幅1.5cm、直径18cm~15cmもの環状の実質的にオープンな部分」が、18cm~15cmもの回転直径で、渦巻式洗濯機の回転体が回転するように回転すれば、

水をかき回す回転体(=回転翼又はパルセータ)の直径18cm~15cm、幅1.5cmもの実質的にオープンな部分の側方の水および上方の水(柱2’の外の洗濯槽内の水)が、水をかき回す回転体(=回転翼又はパルセータ)の回転運動によって直接掻回されて回転運動を発生しない、というのは

明らかに経験則に反する。

水をかき回す回転体(=回転翼又はパルセータ)の「直径18cm~15cmで1.5cmの幅を有する実質的にオープンな部分」がモーターに駆動されて回転運動すれば、回転体のこの実質的にオープンな部分の周囲(注9)に在る水は、上方の水も側方の水も回転体(=回転翼又はパルセータ)の翼や凹凸で直接かき回されて回転運動をする。(但し、引用例は案内具10でおおわれて、羽根車7の上方全体が塞がれることにより)回転体の上方への影響は遮断され、側方への影響は放射状の翼12で回転運動が阻止され放射状の翼12に沿った放射方向の流れのみが発生する。)

[注9: 周囲とは“ぐるり、めぐり、まわり、外界、環境”等の上方が除外されない概念。広辞苑・甲第38号証。準備書面(四)第23頁。

原判決が周囲の語句を、側方のみの意味に用いようとすることにも理由齟齬がある。審決8頁19行~9頁3行(甲第1号証)も渦巻式洗濯機の「回転体の周囲がオープンに形成され」と言っている。渦巻式洗濯機の回転体の水を掻回す凹凸や翼は回転体の上面に設けられているのであるから(甲第14号証等多数)、渦巻式洗濯機において「回転体の周囲がオープンに形成され」ることにおいて、上方を除外するのは不合理であり、審決における「周囲」の語句においても上方は除外されていない。]

すなわち、経験則として水には粘性があり、回転体(=回転翼又はパルセータ)の回転により回転体の翼や凹凸に接触している水はもちろん更に上方の水まで回転体の回転の影響で一緒に回転運動をするのは通常、経験されるところである。本願発明の回転体が上方の水も側方の水も直接掻回して回転水流を発生させるというのはこのような現象でよいのである。

回転体の回転の影響が直接回転体の上方の水に及ぶということは、必ずしも回転体から真上の上方に向かう流れの発生に限られない。渦巻式洗濯機の回転体の垂直に上方の水面で水平面の回転運動をしている流れが、回転体から真上の上方へ流れてきたものではないことは経験されるところである。

逆に本願第2図及び特許請求の範囲第1項の通り、渦巻式洗濯機の水流は上層から「渦巻状に中心に近づきながら下降」しているのであり、回転体の垂直に上方の水面の辺りも同様である(甲第14号証、甲第27号証第4図、甲第33号証第1図等。なお、甲第33号証第1図は甲第14号・27号証のラセン状に下降する水流を水平面の回転運動成分のC状の矢印Aと垂直方向の運動成分のJ状の矢印Bで分解的に表現したものである。証拠申出書(五)1頁。)。

原判決のいう「回転体の上方への流れ」というのが、回転体の真上の範囲内の上方に向かう流れというのであれば、

渦巻式洗濯機は、回転体の円形の輪郭の垂直方向上方の延長線内の狭い円柱状の空間の範囲内で、回転体の中央部に水面から下降してくる水流と回転体の周部の表面から該狭い円柱状の空間の範囲内で上昇していく水流が発生することになるが、その様な水流は科学的に発生し得ず経験則に違反するし、事実、渦巻式洗濯機の水流は上記の甲第14号証、甲第27号証第4図、甲第33号証第1図等の如く、その様なものではない。

本事件で原告が主張している「回転体が上方の水も側方の水も直接掻回して渦巻水流を発生させること」や「回転体の回転の影響が回転体の上方の水にも及ぶこと」というのは、上記の如く経験則として水には粘性があり、回転体(=回転翼又はパルセータ)の回転により回転体の翼や凹凸に接触している水はもちろん更に上方の水まで一緒に回転運動をする、通常、経験されるところによる流れである。

すなわち、回転体の周囲に在る水は、上方の水も側方の水も、直接かき回されて回転運動をすることにより「水平面の回転運動(円運動)の流れ(注10)」が発生するのである。

回転体の上方の水の流れ(「上方への流れ」ではない。)は、上記の如く、「回転体の上方における水平面の回転運動(円運動)の流れ」があり、しかも、この「水平面の回転運動(円運動)の流れ」は、(注10)の如く本願発明の解決課題である洗濯物の絡み合いの主要因の一つである重要な流れなのである。

引用例のように円錐台状の案内具10でおおわれて、羽根車7の上面全体が塞がれていれば、羽根車7の回転運動の上方の水への影響は遮断され、羽根車7の上方には、このような直接かき回されることにより回転運動をする「水平面の回転運動(円運動)の流れ」は発生しない。

[注10: 回転体で直接掻回される激しい「水平面の回転運動(円運動)の流れ」は、(中心に近づきながら下降する運動の流れと共に)、

本願発明の解決課題である洗濯物を巻込んで絡み合いを生じさせる「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流であるところの渦巻状に中心に近づきながら下降する水流」の主要因である重要な流れである。準備書面(一)5~9頁。]

本願発明は、上記の如く、第2図実施例においても、回転体の回転運動が作り出す流れは(原判決がいう「回転体の上方への流れ」が発生しなければ回転体の上方の水への影響は有得ないという主張も経験則に反するが)、

回転体の上方の水も側方の水も回転体で直接かき回されることにより、

回転体の側方にも上方にも「水平面の回転運動(円運動)の流れ」が、発生するのであり、

単に回転体の横方向(放射方向)の流れが出来るにすぎないものでは無い。

本願発明の回転体は回転体の上方の水に対しても、側方の水に対しても、開放されているのであり、第2図実施例も回転体の上方の水に対しても開放されている。

従って、甲第4号証第2図(=本願第2図実施例の図)に対する原判決の41頁17行~42頁11行の

「同図から明らかなとうり、回転体と円錐状柱2’底部付近との間隔は比較的小さいから、実施例の構成によっては、回転体の回転の影響が直ちに直接回転体の上方の水に及ぶことはなく、したがって回転体がその上方の水に対しては実質的に開放されていない場合、つまり、本願発明における回転体が洗濯槽内の水を掻回しても、回転体が作り出す流れの大部分が回転体の横方向の流れであり、回転体の上方への流れは極めてわずかである場合がありうることが認められる。そうすると、本願発明の構成によっても、回転体の回転が直接上方の水に影響するという理由によって上方への流れができず、単に回転体の横方向の流れが出来るにすぎない場合があることを否定することができない。」という評価は経験則に違背している。

3. 従って、上記の1.項、2.項の2点を根拠とする原判決の42頁12~18行の

「以上のとうりであるから、本願発明の特許請求の範囲第1項の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言は、単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対してだけ開放されているだけの場合をも含んでいるというべきであり、この文言を、回転体の上方の水に対しても開放されている場合でなければならない、とあえて限定して解すべき根拠はない。」とする理由には、上記の如く理由の齟齬があり(民事訴訟法395条第1項第6号)、証拠の評価に判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反があり(民事訴訟法第394条、同法第185条)、原判決は破棄を免れない。

第2点の2(理由齟齬・経験則違反)

原判決の二2項には、上記、第2点の1に加えて、以下の如く、理由齟齬及び経験則違反がある。

原判決は、本願発明明細書(甲第2号証参照)の一部を構成している甲第4号証の手続補正書2頁7~17行を本体の明細書から誤って分断して、甲第4号証を評価している。

すなわち、判決は39頁12行~41頁4行に続く41頁5~42頁9行で、「前者の記載からは、本願発明の特許請求の範囲第1項の「オープンな」との文言は、「クローズな状態」と反対な状態であり、単に回転体がポンプ室内など密閉空間に封じられていることを排除するにすぎない、と理解することができる。」と甲第2ないし第4号証を根拠に判断している。

しかし、原判決自体39頁19行~41頁4行で認める通り、

「甲第2ないし第4号証と前記第二の一4(1)の事実によれば、

本願明細書には、…中略…「このタイプと別のタイプの羽根車がポンプ室内に封じられ、クローズな状態で回転する遠心ポンプ式の洗濯機において固定の放水口から放射状に又は一方向に噴出する噴流によって洗濯槽内の水を二次的に流動させるのと異なり、このタイプは水を掻回す回転体がポンプ室内などの内に封じられていず、洗濯時に回転体がオープンな状態で回転し、回転体が直接洗濯槽内の水を掻回すので、回転体の周囲の水が回転運動し、強い渦巻水流が発生するため、洗濯物が固く絡合ったり、ねじれたりする欠点が存した。」

(手続補正書2頁7行ないし17行)との記載…中略…実施例として別紙第一の第2図が添附… …が認められる。」のであります。

注意すべきはこの(手続補正書2頁7行ないし17行)の記載は、

甲第4号証である手続補正書2頁4~17行の通り、甲第2号証である本願特公昭63-7798公報の1頁1欄19行~21行の「しかし、このタイプは……欠点が存した。」を「しかし、このタイプと別のタイプの… …する欠点が存した。」に訂正したものであり、

この(手続補正書2頁7行ないし17行)の「しかし、このタイプと…」の記載は、甲第2号証の1頁1欄15~26行の「従来の技術」と表示した項の従来技術の説明の項に属するものであり、

従って、甲第2号証の1頁1欄16~18行の「今日、洗濯機の普及はめざましく、その多くは日本では渦巻水流式であり、例えば洗濯機の底部に水をかき回す回転体を設けたものである。しかし、このタイプと…」と続く文章として補正されたものである。

従って、上記の甲第4号証(手続補正書2頁7~17行)中の「このタイプ」とは、日本に多い従来の渦巻式洗濯機のタイプのことであり、洗濯槽内に柱が設置されていない回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプである。

そして、回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプにおいて、上記の如く、

「噴流によって洗濯槽内の水を二次的に流動させるのと異なり、このタイプは… …洗濯時に回転体がオープンな状態で回転し、回転体が直接洗濯槽内の水を掻回すので、回転体の周囲の水が回転運動し、強い渦巻水流が発生する…」と記載されており、

特許請求の範囲第1項(の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」)において用いられている「オープンな」の文言についての説明が、

「(オープンな)状態で回転し、回転体が直接洗濯槽内の水を掻回すので、回転体の周囲の水が回転運動し、強い渦巻水流が発生する…」というように、

本願明細書である甲第2ないし第4号証に記載されているのであります。

そして、回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプにおいての「オープンな」の説明として言う「水が回転運動し、強い渦巻水流が発生する」ところの「回転体の周囲」とは回転体の上方が除外されていない。

けだし、従来の回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプにおいては、回転体は上方も側方も開放されていることは、経験される極めて明白は事実である。

なお、前記(注9)の如く周囲とは“ぐるり、めぐり、まわり、外界、環境”等の上方が除外されない概念である(広辞苑・甲第38号証。準備書面(四)第23頁)。

従って、本願発明において、「オープンな」は、柱の設置と特許請求の範囲第1項に両記されることにより、柱の設置によっても回転体は実質的に洗濯槽内の水に対して回転体の上方も側方も開放されているという趣旨で用いられていることが、甲第2ないし第4号証に記載されているのであります。

そして、特許請求の範囲に図面中数字を引用していない本願では、特許請求の範囲の記載自体の合理的解釈によって発明の趣旨が解釈されるべきで、その解釈によって実施例の図面も解釈されるべきで、特許請求の範囲の記載から離れて先に実施例の図面を解釈してその図面の解釈によって特許請求の範囲の解釈を限定するべきではない。

また、甲第1号証である審決理由も8頁19行~9頁3行の(3)で従来の回転体のみの渦巻式洗濯機について「洗濯槽底部に設置された回転体の周囲がオープンに形成され洗濯槽内の水が回転体で直接掻き回されて渦巻が発生する洗濯機は本願出願前周知であり、…」と認め、

且、続く9頁5行~の(4)で、洗濯槽内部に心棒などの柱を設置した周知の手段として、(太さ4~5センチメートルの)心棒などの柱が回転体(回転翼またはパルセータ)の中央に配置され、心棒などの柱が回転体の上面全体には配置されないすなわち回転体が心棒などの柱でおおわれない技術=「柱の設置によっても実質的に回転体の上方も側方も開放されているオープンな技術」、である実開昭52-156280(甲第24号証)等を挙げている(準備書面(五)28頁22行~30頁19行)。

しかも、原判決は、上記の如く、39頁19行~41頁4行で

「甲第2ないし第4号証と前記第二の一4(1)の事実によれば、本願明細書には、… …このタイプ(注:回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプ〉は… …洗濯時に回転体がオープンな状態で回転し、回転体が直接洗濯槽内の水を掻回すので、回転体の周囲の水が回転運動し、強い渦巻水流が発生… …との記載があり、実施例として別紙第一の第2図が添附されていることが認められる。」と述べて、

従来の回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプの説明における回転体の上方も側方も開放されている趣旨の「オープンな」の文言を、本願発明実施例の第2図に適用することにより、原告と同様に、本願発明の特許請求の範囲第1項に記載された「オープンな」の文言と

同じ意味に解釈している。

(勿論、本願発明者である原告は、回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプにおける「オープンな」と共通な趣旨の、洗濯槽内の水に対して実質的に回転体の上方も側方も開放されている趣旨の「オープンな」と「柱の設置」の文言を、特許請求の範囲第1項に両記することにより、「柱の設置」が回転体が洗濯槽内の水に対して実質的に上方も側方も開放されている「オープンな(少なくとも水を掻回す能力が大きい回転体の周部が上方も側方も開放されている)」状態で回転することを妨げない、両立するものとして、発明を構成していることは、準備書面(三)22頁8~27行、準備書面(一)18~24頁等で度々説明してある。)

回転体は周部の回転運動直径が大きいので、水を掻回す能力も大きく、この部分が「オープン」であれば、渦巻式洗濯機における水を掻回して渦巻水流を発生させる能力は実質的に失われることはない。

然るに、原判決が、「(41頁5~9行)前者の記載からは、本願発明の特許請求の範囲第1項の「オープンな」との文言は、「クローズな状態」と反対な状態であり、単に回転体がポンプ室内など密閉空間に封じられていることを排除するにすぎない、と理解することができる。」

と甲第2ないし第4号証を評価して、本願発明が回転体を洗濯槽内の水に対して実質的に上方も側方も開放されているオープンな状態で回転させることを否定するのは、

重要な証拠の評価につき、証拠に記載されていることを、記載されていないと評価しており、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反がある。

また上記の通り、回転体のみの渦巻式洗濯機のタイプにおける上方も側方も開放されている「オープンな」についての記載である(手続補正書2頁7行ないし17行=甲第4号証)中の説明の記載を根拠に、41頁5行~43頁3行で、「前者の記載(=手続補正書2頁7行ないし17行)からは、本願発明の特許請求の範囲第1項の「オープンな」との文言は、「クローズな状態」と反対な状態であり、単に回転体がポンプ室内など密閉空間に封じられていることを排除するにすぎない、と理解することができる。…中略…

以上のとうりであるから、本願発明の特許請求の範囲第1項の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言は、単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対して開放されているだけの場合を含んでいるというべきであり、この文言を、回転体の上方の水に対しても開放されている場合でなければならない、とあえて限定して解すべき根拠はない。また、本願発明において回転体が洗濯槽内に設置された柱によりおおわれている場合があり、本願発明の回転体の回転によって直接上方への水流が発生しない場合もあることは上述のとおりである。」

と結論することは、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な事項につき理由の齟齬がある。

けだし、回転体のみの渦巻式洗濯機の回転体が「単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対して開放されているだけの場合」はあり得ないのであるから、この回転体のみの洗濯機の回転体に関する「オープンな」の文言に、そのような場合の意味が含まれているというのは矛盾しており理由の齟齬がある。

従って、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な事項につき理由齟齬があり(民事訴訟法395条第1項第6号)、重要な証拠の評価に判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反があり(同方第394条、185条)、破棄を免れない。

第3点(理由齟齬。経験則違反。理由不備。審理不尽。)

原判決は「二3 相違点の判断の誤り(取消事由3)(1)~(5)」の項中の、「(1)本願発明の要旨認定の誤り」「(2)引用例記載のものの技術内容の誤認」「(3)本願発明と引用例記載のものとの技術思想の差異を看過した審決の誤り」及び「二4 本願発明の奏する作用効果の看過(原告注:作用効果の相違点の判断の誤りを含む。)」

に対する原判決の判断・理由を

「三 取消事由3について」の項中の

「1 取消事由3(1)について」、「2 取消事由3(2)について」

「3 取消事由3(3)について」及び「四 取消事由4について」

に於いて、示しているが、

審決取消事由を否定する理由に、第2点の1・第2点の2で述べた如く理由齟齬、経験則違反がある二2項を、引用することによる違法を含め、下記の如く理由齟齬、経験則違反、理由不備及び審理不尽がある。

1.「三1 取消事由3(1)について(43頁~45頁)」の判断の違法。

*取消事由3(1)は「(1)本願発明の要旨認定の誤り

(20頁~23頁)」

原判決は、43頁19行~44頁4行で、

「前記二2において検討したとうり、本願発明において、特許請求の範囲第1項の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言には回転体がその側方に位置する洗濯機の水に対してのみ開放されている場合をも含んでいるのであるから、上記主張は理由がない。」と述べて、前述の通り理由齟齬、経験則違反がある二2を引用して、審決取消事由を否定する理由としている。

従って、「三1 取消事由3(1)について」の判断には理由齟齬、経験則違反の違法があり破棄を免れない。

更に、原告準備書面(一)23頁29行~24頁1行の

「従って、本願発明においては特許請求の範囲の記載の形式上も実質上も、「回転体が回転する状態」における条件の「オープンな」は、上方も側方も、「筒状で上部に隙間を有する柱」の洗濯槽の中心への設置によって、実質的に失われないのである。」

と主張しているのに、

原判決は取消事由3(1)と称する項で、

「(21頁4~6行)…本願発明は、その回転体が回転体の周囲側においてオープンな状態で回転すると同時に…」と記載し、

誤って、あたかも原告が取消事由において「周囲」の語句を「側方」の意味に用いて「オープンな」を側方のみに関するものであるかのように意味付けている如く、原告の主張に誤った意味付けをしている。

原告は、「オープンな」は回転体の上方も側方もオープンの意味に用いており、かつ「周囲」の語句の意味は、広辞苑・甲第38号証の通り、「〈1〉ぐるり。めぐり。まわり。〈2〉外界。環境。〈3〉周の長さ。」であり、上方が除外される概念ではない(準備書面(五)23頁6~8行)。

従って、原告の主張を取消事由3(1)項の如く誤って意味付けし、その原告主張を誤って意味付けした取消事由3(1)を対象にして判断した「三1 取消事由3(1)について」の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、理由齟齬、理由不備の違法があり(民事訴訟法394条、同法185条、同法395条第1項第6号。)、原判決は破棄されるべきである。

2.「三2 取消事由3(2)について(45頁~46頁)」の判断の違法。

*取消事由3(2)は「(1)引用例記載のものの技術内容の誤認

(23頁~24頁)」

この項における原判決には、甲第9号証の評価に経験則の違反があり(民事訴訟法第394条)、理由齟齬、理由不備がある(同法第395条第1項第6号)。

そして、審理不尽が甚だしい。原判決は、末尾の六項で包括的に「判断を加えた取消事由を言い換えた失当なものか、明示的に判断するまでもないもの」と述べるが、これ等の瑕疵を補い得る記載は無い。

すなわち、回転している羽根車7から放出される水は、回転運動をしながら放出されることが経験則上自然である。水中で物体が回転すれば、その物体の周囲にある物体の上方や側方の水が回転運動をすることは経験されることである。同様に、日本国内で一般に普及している回転体(=回転翼又はパルセータ)のみの渦巻式洗濯機において、洗濯槽底部中央の回転体が回転すれば、回転体の周囲にある回転体の上方や側方の水が回転運動をすることは経験されることである。そしてこの回転体の回転によって回転体の周囲にある回転体の上方や側方の水が回転運動し洗濯槽内全体の渦巻水流を生じるに至るのである。従って、羽根車7から放出された水は、羽根車7の側方にある放射状の翼12の作用を受ける前は回転運動をしているのである。

従って、引用例の「羽根車7の先端から放出される水流は、放射線に対して90°近い角度すなわち羽根車の先端が描く円周に対して接線方向をなしている」の記載は、

経験則により、羽根車7から放出され翼12の作用を受ける前の回転運動をしている水流の或る一点における或る瞬間の運動成分すなわち回転運動水流の一点におけるベクトルの方向(注11)が円周に対して接線方向、すなわち放射線に対して90°近い角度をなしていることを意味していると評価されるべきである。準備書面(一)26頁15行~30頁4行参照。

若し、引用例の「放射線に対して90°近い角度」の水流が、回転運動水流でなく、文字通り「放射線に対して90°近い角度を持った水流」であるとすれば、角度があるのであるから直線的水流ということになり、かつ直線的水流ということは放出箇所が固定されていなければ直線的水流とはなり得ないから、固定の放出箇所から直線的に放出される水流となる。

しかし、日本国内で一般に普及している回転体のみの渦巻式洗濯機において、固定の放出箇所から直線的に放出される水流が発生するようなことは経験されないものである。水が放出される回転体の先端自体回転している。

[注11:ベクトルとは、大きさ・方向及び向きを有する量であり、力・速度・加速度などはベクトルとしてあらわされる。]

そして、引用例の洗濯機においては、このような羽根車7から放出された回転運動をしている水流が、羽根車7の側方にある固定の放射状の翼12(案内具10の下側周縁に備えられている。)の作用によって、原判決も「(46頁3~4行)一定角度で放出させる」と認めている通り、固定の放出方向を持った水流に変換されているのである。

すなわち、羽根車7から放出される水は、回転運動水流から、放射線に対する一定角度を持った直線的水流(噴流)に変換されたのである。そして、固定の翼12と隣の翼12の間の固定された放出口から放射線に対し20~30°の角度を持った直線的水流(噴流)に変換された結果、引用例の課題の洗濯物を脱水槽1の内壁に“たたき付ける水流”が得られたのである。

なお、引用例の洗濯物が「脱水槽1にたたき付けられると共に円周方向に流される」のは、脱水槽1の内壁に“たたき付ける水流”が脱水槽1の円形の内壁に沿って流れて、円形の内壁との組合わせによって脱水槽1の内壁際で発生した流れであって、羽根車7によって直接掻回された渦巻水流ではない。準備書面(四)別紙第7図・13頁1行~14頁3行参照。

羽根車7から放出され放射状の翼12の作用を受ける前の回転運動水流から、放射状の翼12の作用で「(46頁3~4行)一定角度で放出させる」直線的水流(噴流)を得ることは、放出角度を持った直線的水流(噴流)の創出であって、「水流の放射線に対する角度を調整する作用」ではない。

従って、原判決には甲第9号証の評価について判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反があり、理由齟齬、理由不備、審理不尽の違法があり、破棄を免れない。

3.「三3 取消事由3(3)について(46頁~49頁)」の判断の違法。

*取消事由3(3)は「(3)本願発明と引用例記載のものとの技術思想の差異を看過した審決の誤り (24頁~28頁)」

イ) 取消事由3(3)は「(3)本願発明と引用例記載のものとの技術思想の差異を看過した審決の誤り」とされ、原判決59頁六項は包括的にしか記載されていないが、原審で、原告は、第1点で論じた通り、当該事項に関し、相違点及び相違点の判断の誤りも下記の如く主張してある。

〈1〉本願発明の回転体又は引用例の羽根車が、柱又は案内具の設置により、上方も側方も実質的にオープンか否か、おおわれているか否かの相違点の判断の誤りに関し準備書面(六)11頁9行~12頁18行。

〈2〉放射状の翼12(回転運動を妨げる構造物)の有無の相違点の判断の誤りに関し準備書面(一)34頁3~17行、準備書面(四)7頁8行~8頁4行・8頁16行~22行、準備書面(六)12頁1行~18行。

〈3〉構成の違い(主に〈1〉〈2〉の構成の違い)による水流の違いの相違点の判断の誤りに関し準備書面(七)・補正書(4)2頁3~10行。構成の違いと水流の違いの相違点の判断の誤りに関し準備書面(六)11頁9行~12頁18行。

看過の主張に対する反論は看過されていない主張・証明だが、判断の誤りの主張に対してはそれだけでは足りない。原判決には審理不尽がある。

ロ) 原判決は、46頁18行~47頁4行で

「しかしながら、前記二2において検討したとうり、本願発明の特許請求の範囲の「オープンな」との文言は、回転体の上方に対しても開放されている場合でなければなないとは限らず、単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対して開放されているだけの場合をも含んでいるのであるから、原告の主張は前提を欠く。」と記載し、

第2点の1、第2点の2で原告指摘の通り理由齟齬、経験則違反がある二2を引用して、審決取消事由を否定する理由としている。

従って、「三3 取消事由3(3)について」の判断には理由齟齬、経験則違反の違法があり、原判決は破棄されるべきである。

ハ) また、原判決は、47頁4~13行で

「なお、… …その趣旨は審決がこの点を看過していることを主張するものと解されるが、… …翼12… …審決に上記の点に関する看過はない。」と記載するが、

第1点で原告指摘の通り、原告は放射状の翼2に関する構成上の相違点の判断の誤りをも主張してあるから、「三3 取消事由3(3)について」の判断には、理由不備の違法があり(民訴法395条1項6号)、原判決は破棄を免れない。

ニ) 更に、原判決は、47頁15行~49頁18行で

「また、原告は、本願発明は、回転体が… …上方に対してもオープンな状態で回転して洗濯槽内の水を直接掻回す渦巻式洗濯機であるのに対し、引用例記載のものは、ポンプ式であり、… …

(48頁2行)しかしながら、上述のとうり、本願発明の回転体は、単に洗濯槽の回転体の側方に位置する水に対して開放されているだけの場合をも含んでおり、上方に対しても開放されている場合に限られない。… …」と記載し、原判決が二2項で論じた事項(構成の違いと水流の形態の違い)の相違点の判断の誤りの問題について、第2点の1、第2点の2で原告指摘の通り理由齟齬、経験則違反がある二2項の内容を審決取消事由を否定する理由としている。

また48頁6行~の甲第9号証等を引用する引用例に関する記載も、上記の2.項や第2点の1、第2点の2から、明らかに矛盾しており、理由齟齬がある。

従って、「三3 取消事由3(3)について」の判断には、これ等の点でも判決に影響を及ぼすことが明白な審理不尽、理由齟齬、経験則違反、の違法があり、原判決は破棄されるべきである(民事訴訟法394条、同法185条、同法395条第1項第6号。)

4. 「四 取消事由4について(53頁~54頁)」の判断の違法。

*取消事由4は、「4 本願発明の奏する作用効果の看過

(原告注:作用効果の相違点の判断の誤りを含んでいる。)

(32頁~33頁)」

イ) 取消事由4は、「4 本願発明の奏する作用効果の看過」とされており、原判決59頁六項は包括的にしか記載されていないが、原審で、原告は作用効果の相違点誤認及び作用効果の相違点の判断の誤りも主張してある(準備書面(一)49頁1~末行、等)。看過の主張に対する反論は看過されていない主張・証明だが、判断の誤りの主張に対してはそれだけでは足りない。

ロ) 原判決は、53頁19行~54頁4行で、

「本願発明の奏する作用効果は引用例記載のものにおいて周知技術を適用して羽根車の側面を全くオープンな状態とする構成を採用することにより、当業者が当然に予測しうる範囲のものにすぎず、これをもって格別顕著であるということはできない。」と述べている。

従って、取消事由4の「4 本願発明の奏する作用効果の看過(及び相違点・相違点の判断の誤り)」に対して、

原判決は、「引用例記載のものにおいて周知技術を適用して羽根車の側面を全くオープンな状態とする構成を採用することにより、当業者が当然に予測しうる」とすることにより、

上記の原判決二2の記載の如く、「…本願発明の特許請求の範囲第1項の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言は、単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対して開放されているだけの場合を含んでいる」という判断を前提としている。

従って、理由齟齬、経験則違反がある二2を前提にして、審決取消事由を否定する理由としている。

従って、「四 取消事由4について」の判断には理由齟齬、経験則違反の違法があり、原判決は破棄されるべきである(民事訴訟法395条第1項第6号、同法394条、同法185条)。

ハ) 「四 取消事由4について」には、以下の如く、理由不備、審理不尽がある。

原判決は、本願発明と引用例の作用効果の比較に関して、

53頁14~16行で「引用例記載のものにおいても、多少なりとも洗濯槽内に渦巻水流が発生し、その案内具は、循環する水流を発生させ」と述べている。

しかしながら、原告の主張は、本願発明の作用効果として、

本願発明の「筒状で上部に隙間を有する柱」が、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の中心下降水流の下降水路となって、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の勢いを確保・向上させることを主張しているのであり、

原判決は、判決に影響することが明らかな重要な原告の主張に対する判断・理由を欠いている。

問題は2点あり、第1点は渦巻水流が、回転体で直接掻回されて発生するものであるか否かである。第2点は「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の勢いを確保・向上させるか否かである。

けだし、本事件は渦巻式洗濯機に関する事件であり、日本国内で一般に普及している渦巻式洗濯機は全て、回転体(=回転翼又はパルセータ)が洗濯槽内の水を直接掻回して発生させた渦巻水流で洗濯物を洗うことを特徴とするものであることは、経験される事実である。

原告は、この主張を、準備書面(三)18頁22行~19頁23行で、

「甲第4号証等本願第2図には、本願の「筒状で上部に隙間を有する柱」が、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の中心下降水流の下降水路となっていることが表されている。

甲第2号証等本願公告公報2頁3欄1~3行には「柱が筒状等内部に空間があれば水は柱の隙間から柱の中に流入できるので水流を妨げない。」と記載されている。

そして、この水流が「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」であることは、該公報1頁2欄14~15行に「回転体に回転により水は渦巻をおこす。」と記載されている。

そして、該公報2頁4欄29行~の「発明の効果」の項において、「洗濯槽の上層の水が上部の隙間から筒状の柱内により多く流れ込んで、柱内を下降し、循環する。」と記載して、渦巻水流の強さ・勢いが確保・向上させられることが表されている。

「渦巻状に中心に近づきながら下降する水流」である渦巻水流にとって、洗濯物で中心下降水路が塞がれれば、渦巻水流の強さ・勢いが低下するのは自明である。

従って、「筒状で上部に隙間を有する柱」が渦巻水流の中心下降水流の下降水路となっていることは、隙間から筒状の柱内に水がより多く流れ込んで、柱内を下降し、循環するのであり、このことは当然、洗濯物の存在下においても渦巻水流の強さ・勢いの低下が防がれ、渦巻水流の強さ・勢いが確保・向上させられることを意味している。いわゆる従来の渦巻式洗濯機において洗濯物が渦巻水流の中心に巻込まれて集り、渦巻水流の強さ・勢いが低下することは誰の目にも明らかである。

従って、「筒状で上部に隙間を有する柱」が、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の中心下降水流の下降水路となって、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の強さ・勢いを確保・向上させることは明細書および第2図に記載されている。

原告準備書面(一)の(4)項等に詳述されているので参照されたい。」と記載し、主張している。

そして、「筒状で上部に隙間を有する柱」が、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の中心下降水流の下降水路となって、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の強さ・勢いを確保・向上させることは、

原判決が53頁15~16行で言うような案内具の単なる「循環する水流の発生」の効果以上のものであることは明らかである(準備書面(一)32頁1行~33頁末行)。

しかも、引用例の水流は、「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」では全くない。

引用例は下側周縁に放射状の翼12を備えた円錐台状の案内具10で羽根車7をおおうのであるから、羽根車7は案内具10と放射状の翼12の外側の洗濯物が在る洗濯槽内の水を直接掻回すことは全くない。

更に、放射状の翼12を備えた案内具10は、羽根車7の回転によって直接掻回されて発生しようとする渦巻水流の発生を放射状の翼12と案内具10で阻止して“たたき付ける水流”を得ようとするものであるから、

案内具10は「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の強さ・勢いを確保・向上させるのとは全く逆の作用効果を働くものである(準備書面(一)38頁15~19行。)

このような、判決に影響を及ぼすことが明らかな重要な原告の主張を否定或いは無視する理由を欠く原判決には理由不備、審理不尽があり破棄を免れない

(民事訴訟法395条第1項第6号、同法394条)。

第4点(経験則違反、理由齟齬、理由不備、審理不尽。)

「一 取消事由1について」の項における、本願発明の「筒状で上部に隙間を有する柱」と引用例の「円錐台状の案内具10」の形状・構造および作用が一致しているという原判決の判断・理由が、円錐台の構造・形状に関する甲第36号証及び筒の構造・形状に関する甲第37号証に示されている経験則に照らせば、甲第2ないし4号証および甲第9号証に対する原判決の評価が明らかに経験則に違反していること(準備書面(四)5頁4行~6頁12行)に加え、以上第1~3点からも明らかな如く、原判決は証拠の評価において判決に影響を及ぼすことが明らかな経験則違反、理由齟齬、理由不備、審理不尽があり破棄を免れない(民事訴訟法第394条、同法第185条、同法第395条第1項第6号。)。

第5点(理由齟齬、理由不備)

「三4 取消事由3(4)について(49頁~52頁)」の判断の違法。

*取消事由3(4)は、「(4)引用例記載のものと周知技術とを結合する際の判断の誤り(28頁~31頁)」

1. 原判決は、51頁2~6行で、

「したがって、引用例記載のものが、洗濯槽底部に設置された回転体の周囲がオープンに形成され、洗濯槽内の水が回転体により直接掻き回されて渦巻を発生させる本件出願前の洗濯機を前提としたものであることは否定することができず、上記原告の(周知技術を引用例記載のものに組合わせることは矛盾する、という)主張は理由がない。」と記載して審決取消事由を否定する理由としている。

しかしながら前述の通り、周囲の語句の意味は、上方が除外されない概念であり、事実、上記の原判決が言う「本件出願前の洗濯機」の回転体は回転体の周囲がオープン、すなわち回転体の上方も側方もオープンであるのに対し、引用例の羽根車7は羽根車7の上方は案内貝10でおおわれているのであるから、羽根車7の上方がオープンではない引用例が、回転体の周囲がオープン、すなわちの回転体の上方も側方もオープンである「本件出願前の洗濯機」を前提としたものと言うのは矛盾しており、理由齟齬があり、原判決は破棄されるべきである。

しかも、引用例の課題である洗濯物を脱水槽1の壁に放射線に対して20~30°の角度で“たたき付ける水流”を得る為に、放射状の翼12は不可欠の構成要件であるから、羽根車7の側方に放射状に配置されている放射状の翼12の作用で、放射状の翼12の外側の洗濯槽内の水は羽根車7で直接掻回されることはできないから、「洗濯槽内の水が回転体により直接掻き回されて渦巻を発生させる本件出願前の洗濯機」を前提としたものと言うのも矛盾しており理由齟齬があり、原判決は破棄されるべきである(民事訴訟法395条第1項第6号)。

2. 更に、原告は、引用例記載のものと周知技術とを結合して本願発明と比較するのは、引用例の側に結合することの不合理があることを主張しているのであるのに、原判決にはそのことの判断の理由を欠いている。

すなわち、本願発明の「筒状で上部に隙間を有する柱」は回転体で直接掻回されて洗濯槽内全体に発生する渦巻水流の中心下降水流の下降水路を確保し、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の勢いを、洗濯物の存在下において、確保し、向上させ、洗濯水流としての回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の洗浄力が向上するものであるのに対し、

引用例は、羽根車7を下側周縁に放射状の翼12を備えた案内具10でおおって、羽根車7のみであれば発生する筈であった直接掻回されて発生する渦巻水流の発生を阻止し、引用例の課題の洗浄力向上のための“たたき付ける水流”を得ようとするものであるから(準備書面(一)37頁24~38頁19行等)、

引用例は、本願発明とは構成の予測性の方向が逆の直接掻回されて発生する渦巻水流を阻止するものであり、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の勢いを確保し、向上させようとするものではないのであるから、

引用例記載のものと周知技術とを結合して本願発明と比較するのは、引用例の側に結合することの不合理があることを原告は主張しているのであるのに、そのことに判断の理由を欠いている原判決には、理由不備の違法があり(民事訴訟法395条第1項第6号)、破棄されるべきである。準備書面(六)26頁25行~27頁9行。準備書面(一)48頁5~末行。準備書面(四)15頁4~20行等。

第6点(理由不備、審理不尽、理由齟齬、経験則違反。)

「三5 取消事由3(5)について(52頁~53頁)」の判断の違法。

*取消事由3(5)は、「(5)引用例記載のものから本願発明の構成が容易に想到しえたとした判断の誤り(31頁~32頁)」

1. 原判決は、53頁16~19行で、

「引用例記載のものの前提として存在する、洗濯槽底部に設置された回転体の周囲がオープンに形成され、洗濯槽内の水が回転体で直接掻き回されて渦巻が発生するという本願出願前周知の洗濯機において、…」と記載して審決取消事由を否定する理由としているが、

上記の第5点1.と同様、

羽根車7の上方がオープンではない引用例が、回転体の周囲がオープン、すなわちの回転体の上方も側方もオープンである「本件出願前周知の洗濯機」を前提としたものと言うのは矛盾しており、理由齟齬があり、原判決は破棄されるべきである。

2. また、原判決は、上記に続いて、53頁3~8行で、

「引用例記載のものにおいて羽根車の側面をオープンな状態とすることは、当業者が容易に想到しうる設計変更にすぎない。したがって、取消事由3(5)の主張は理由がなく、この主張に係る審決の判断に誤りはない。」と述べている。

従って、取消事由3(5)の「引用例記載のものから本願発明の構成が容易に想到しえたとした判断の誤り」に対して、

原判決は、「引用例記載のものにおいて羽根車の側面をオープンな状態とすることは、当業者が容易に想到しうる」とすることにより、

上記の原判決二2の記載の如く、「…本願発明の特許請求の範囲第1項の「回転体を、洗濯槽内の水に対してオープンな」という文言は、単に回転体の側方に位置する洗濯機の水に対して開放されているだけの場合を含んでいる」という判断を前提としている。

従って、理由齟齬、経験則違反がある二2を前提にして、審決取消事由を否定する理由としている。

従って、「三5 取消事由3(5)について」の判断には理由齟齬、経験則違区の違法があり、原判決は破棄されるべきである。

3. そもそも、本願発明と引用例は、

洗濯機における洗浄効果の向上を計るに際して、

本願発明が「筒状で上部に隙間を有する柱」で、いわゆる渦巻式洗濯機の「回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流」の発生を妨げずに向上させつつ欠点の絡合いを防止するものであるのに対して、

引用例は羽根車7を下側周縁に放射状の翼12を備えた円錐台状の案内具10でおおって、羽根車で直接掻回されて発生する渦巻水流を阻止して洗濯物を脱水槽1の壁に“たたき付ける水流”を創りだそうとするものである。

すなわち、本願発明の「筒状で上部に隙間を有する柱」は回転体で直接掻回されて洗濯槽内全体に発生する渦巻水流の中心下降水流の下降水路を確保し、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の勢いを、洗濯物の存在下において、確保し、向上させ、洗濯水流としての回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の洗浄力が向上するものであるのに対し、

引用例は、羽根車7を下側周縁に放射状の翼12を備えた案内具10でおおって、羽根車7のみであれば発生する筈であった直接掻回されて発生する渦巻水流の発生を阻止し、引用例の課題の洗浄力向上のための“たたき付ける水流”を得ようとするものであるから(準備書面(一)37頁24~38頁19行等)、

引用例は、本願発明とは構成の予測性の方向が逆の直接掻回されて発生する渦巻水流を阻止するものであり、回転体で直接掻回されて発生する渦巻水流の勢いを確保し、向上させようとするものではないのであるから、

引用例記載のものと本願発明と比較して引用例の構成により本願発明の構成を予測することの不合理があることを原告は主張しているのであるのに、

そのことに判断の理由を欠いている原判決には、理由不備、審理不尽の違法があり(民事訴訟法395条第1項第6号)、破棄を免れない。準備書面(六)26頁25行~27頁9行。準備書面(一)48頁5~末行。準備書面(四)15頁4~20行等。

第7点 拒絶理由通知の欠如(理由不備。審理不尽。)

原告が準備書面(二)で、異議申立理由補充書は本願発明が引用例(実公昭40-595号=甲第9号証)と同一であるという理由(特許法第29条第1項)と引用例に基づいて容易に発明しえたという理由(特許法第29条第2項)を、両立しないまま共に主張し、特許庁が異議決定・拒絶査定において法第29条第1項の理由を採用することにより、引用例中の同一の発明に対しては第1項と両立し得ない理由である法第29条第2項による理由を一旦、否定したのであるから、審決で特許庁が一旦否定した法第29条第2項を、判断を翻して、改めて拒絶査定維持の理由に採用する時は、引用例(実公昭40-595号)を引用した法第29条第2項の拒絶理由通知を改めてすべきであると主張したのに対し、

原判決は、原告の主張を「5 手続違背(取消事由5)(34頁1~12行)」の如く捨象し、「五 取消事由5について」の末尾の59頁8~13行で、

「したがって、本件においては拒絶理由通知制度が要請する手続的適正は保障され、審判の公正は担保されており、特許庁審判官が原告に対しさらに重ねて前記周知技術を引用した拒絶理由(原告注:この周知技術は引用例実公昭40-595号ではなく、〈2〉ドイツ連邦共和国特許第809186号明細書及び〈3〉米国特許第2363184号明細書であり、しかも本願発明に関するような技術ではない。)を通知しないまま審決したことをとらえて違法とすべき謂れはない。そうすると、取消事由5は理由がない。」と記載して、

引用例についての特許法第29条第2項を理由とする拒絶理由通知の主張に対しては具体的に理由を述べず、他方59頁14~19行の六項には、まとめて「六 なお、原告は上記の主要な争点以外にも… …主張しているが、これらは、… …審決の取消事由とはならないことが明白で明示的に判断するまでもない」と述べている。

しかし、以下の如く、この原判決には、引用例実公昭40-595号についての特許法第29条第2項を理由とする絶理由通知の欠如(特許法第159条第2項・同法50条違反)の主張に対し理由不備(民事訴訟法第395条第1項第6号)、審理不尽があり判決に影響を及ぼすこと明らかな違法(民事訴訟法第394条)があり、破棄されるべきである。

1. すなわち、原審訴状の請求の原因の「一 特許庁における手続きの経緯」で指摘した如く、また本件審決に記載の如く、原査定が引用例実公昭40-595により新規性なし(特許法29条1項)とする異議決定理由を理由として本願発明を拒絶査定したのに対し、本件審決は同じ引用例により進歩性なし(特許法29条2項)としながら(甲第1号・8号・6号・31号証等参照。)、審決理由の11頁9~17行で、

「なお、原査定は本願発明は引用例の発明に対し、新規性がないものとして拒絶したものであるが、特許異議の申立てにおいては、同引用例に基づき進歩性がないという理由も申し立てられており、請求人も、特許異議の答弁、審判請求の理由等において、進歩性に関する拒絶の理由に対してもすでに意見を述べる等の対応をしているので、当審において改めて拒絶の理由を通知する必要はないものと認める。」と述べている。

2. しかしながら、特許庁の“審判便覧”は、

「61-02 原査定において新規性を否認して拒絶した出願を審判では進歩性がないとして拒絶するのが適当と判断した場合の取扱い」として、

「原査定において引用例を示し、新規性なしとの拒絶理由で拒絶査定した出願の拒絶査定に対する審判において、その出願の発明は前記と同一の引用例による公知事実に基づいて容易に発明をすることができたものであると認めるのが適当であると判断した場合には、特§159〈2〉の査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合と解すべきであるから、改めて拒絶理由を通知する。…」と、規定している。(甲第30号証)

3. しかも、本件において異議申立で進歩性なしの理由の申立がなされていたと言っても、引用例の同じ発明について両立しない、新規性なしの理由と、両立しないまま一緒に申立ているのであります。

そして、両立しない進歩性なしと新規性なしの申立のうち、新規性なしの拒絶査定をすることによって特許庁が進歩性なしの申立を否定したのであります。

これは、例えば、異議で、引用例Aとの間の新規性なしと共に、引用例Bとの間の進歩性なし、が主張されていて、原拒絶査定で引用例Aを理由に新規性なしとされた後で、審決で引用例Bとの間で進歩性なしとされるような場合に、拒絶査定の段階で特許庁が引用例Bとの間の進歩性なしの主張を否定する判断を該拒絶査定で示したことにはならない場合と、本事件は異なる。

新規性に関する法29条1項は、出願前公知発明等を除き特許を受けることができると規定しており、新規性なしとは当該発明が公知発明等と同じということである。

これに対し進歩性に関する法29条2項は、当該発明が公知発明等に基いて容易に発明をすることができたときは、「…同項(1項)の規定にかかわらず、特許を受けることができない。」と規定し、同じでないもののうち公知発明等に基いて容易に発明をすることができたものは1項の規定にかかわらず特許を受けることができないとしている。

従って、進歩性なしということは引用例と同じではないすなわち異なるということである。従って、引用例の同じ発明との関係で、同じと異なるすなわち新規性なしと進歩性なしは両立せず、新規性なしの拒絶査定の後で進歩性なしと言うのは、判断を翻すことになる。

本事件のように、新規性なしの拒絶査定で特許庁が進歩性なしを否定している段階で、審判請求人は、特許庁が肯定している新規性なしに加え、特許庁が否定している進歩性なし、の両立しない二つの理由の両方に充分に対処する責任を荷されているのでありましょうか。

4. 逆に、進歩性なしとした後で同一の引用例で新規性なしとする場合は、審判便覧61-03は拒絶理由通知をしないとしているが、この場合でさえも東京高裁昭和56年・行ケ・8号 59.9.26判決は、「同一発明(=新規性なし)とみられる理解が容易でない特段の事情があるとき」には、(引用例の同じ発明についての新規性なしを理由とする)拒絶通知を必要としている。

審判請求人にとって、新規性なしの異議決定・拒絶査定で、特許庁が一旦進歩性なしの主張の方は否定している段階で、特許庁により進歩性なしの理由で拒絶されるであろうことの理解が容易な事情にあるのでありましょうか。

5. 審判便覧61-02は「…改めて拒絶理由を通知する。」と規定することにより、新規性なしの拒絶理由通知で当該引用例の公知性が通知され、従って必然的に該新規性なしの拒絶理由通知で同引用例による進歩性なしが否定されていた後に、同じ引用例で改めて進歩性なしを理由としようとする場合は、改めて拒絶理由通知を必要とし、改めて対処する機会を与えているのである。

従って、引用例の同じ発明について両立しないまま新規性なしと進歩性なしが異議申立られ、新規性なしの拒絶査定で特許庁により一旦進歩性なしの異議申立が否定されたのであるから、その後、特許庁が審判で新規性なしの拒絶理由を翻して、改めて進歩性なしを理由としようとする場合は、改めて対処する機会を与えるべきであります。

6. 新規性なしとした後に、同一の引用例のもとに進歩性なしとすることは異なる理由に該当する(審判便覧61-02。東京高裁昭和57年(行ケ)66号59.9.27判決等)。

イ) このような引用例の同一の発明に基づいて新規性なしの後に進歩性なしを理由とする場合には、相矛盾し、特許庁の判断が翻されたのであるから、異議申立てに引用例の同一の発明について両立しない新規性なしと進歩性なしが一緒に申立てられていたことを理由に、

新規性なしの拒絶査定によって一旦拒絶理由であることを否定した進歩性なしを、「拒絶査定に直接結び付かなかったけれども出願人に通知されていた拒絶理由」と見なすべきでなく、

査定の理由と異なる拒絶理由(特§159〈2〉)と解し、審判請求人に改めて拒絶理由通知して、改めて対処する機会が与えられるべきであります。

ロ) 審決理由は、11頁11~17行で、

「特許異議の申立てにおいては、同引用例に基づき進歩性がないという理由も申し立てられており、…」と言うが、

実状は、上記の如く、この進歩性なしの理由は、引用例実公昭40-595の同じ発明について、両立しない、新規性なしと一緒に申立てられ、新規性なしが拒絶査定理由にされることによって、特許庁により拒絶理由であることを否定されていたことを、審決理由が無視するのは不当であります。

引用例の同じ発明について両立しない「新規性なし・進歩性なし」の理由の中から、拒絶査定で特許庁による新規性なしの判断を呈示されれば、

審判請求人としては、審判請求の理由において新規性なしの判断に対しての対処をすることになり、

他方の進歩性の有無の問題に関しては、新規性なしとして特許庁により進歩性の問題ではないとされている段階で、進歩性なしに対しての実質的な対処をすることは困難であり、その困難を、両立しない新規性なしと進歩性なしの理由について前後で相矛盾する判断をした審査・審判機関ではなく、審判請求人・特許出願人に負担させることは公平にもとるものであります。

従って、実は、異議申立ての中の進歩性なしの主張について特許庁が一旦否定しておきながら、後でその判断を翻すに当たって、「特許異議の申立てにおいては、同引用例に基づき進歩性がないという理由も申し立てられており、…」と言って、拒絶理由として進歩性なしを通知されていたと見なして、審判請求人に改めて対処する機会を与えないのは不当であります。

7. また、審決理由は、11頁11~17行で、

「…進歩性に関する拒絶の理由に対してもすでに意見を述べる等の対応をしている…」と言っているが、

事実は、拒絶査定の新規性なしの拒絶理由によって、逆に進歩性なしの主張は否定されていたのであり、審判請求人が進歩性なしに対しての実質的な対処をすることは上記の如く困難であります。

新規性なしの拒絶理由に対する対処と、進歩性なしの拒絶理由に対する対処とでは、同じとは限らないし、

引用例の同じ発明について両立しない新規性なしと進歩性なしの両方に対応する対処を、特許庁が新規性なしの拒絶査定をして進歩性なしを否定している段階で予め求めそれに対処することが、可能とは限らないのではなかろうか。

また、このような段階で、特許庁が示している新規性なしの理由への対処が迫られているのに、新規性なしの理由に加え特許庁が否定している(新規性なしと両立しない)進歩性なしの理由の、両方に対応する対処を予め求めることは審判請求人に過大な負担を強いることになる。

8. 一方、特許庁自身は、審決で自ら誤りを認めている如く異議審査段階で誤って新規性なしの判断をし、出願人に手続的・時間的負担を強いながら、

その後、相矛盾する理由を改めて採用しながら、このような原査定理由と相矛盾する理由の審決理由そのものについて、請求人に審判で対処する機会を与えないのは、

その矛盾の負担を一方的に審判請求人・特許出願人に荷するものであり、審判請求人・特許出願人の利益を著しく損なうものであり、

このように前後で相矛盾する判断を特許庁が下す場合は、特許出願人に通知して、対処する機会を与えるのが発明者・出願人の権利を守る特許法の精神を尊重するものであります。

9. 従って、原査定が引用例実公昭40-595により新規性なし(特許法29条1項)として本願発明を拒絶したのを翻して、本件審決が同じ引用例により進歩性なし(特許法29条2項)としながら、拒絶理由を通知しなかったことの違法を、原告は、「審決の取消事由」の一つとして主張しているのであります。

なお、原審訴状の「一 特許庁における手続きの経緯」に記載の如く、異議審査段階においても、異議に対する答弁書の提出と共にした特許請求の範囲の補正で引用例との違いが更に明白になっていたにもかかわらず、

出願人に知らされていなかった弁駁書中に初めて記載された理由を採用して、本願発明と同一ではないことが極めて明白な引用例実公昭40-595との間に違法に特許法29条1項を適用した特許異議決定の理由を理由とする拒絶査定が、異議決定および弁駁書と一緒に出願人(審判請求人)に一括送付され、出願人に拒絶理由の通知はなされなかった。

この弁駁書は、答弁書と共に提出した昭和63年12月26日補正書で補正された特許請求の範囲に対して弁駁する内容のもので、引用例は異議申立書と同じだが、該弁駁書に初めて記載された理由を含み、異議決定はこの弁駁書に初めて記載された法29条1項の適用を誤って理由付ける理由を採用して、弁駁書を出願人に知らせないまま、異議申立てに理由があるとした。審判請求理由補充書2~3頁参照。

そして、本件審決理由が法29条2項に変更することにより、この法29条1項を適用した拒絶査定理由は違法であることが明らかにされているのであります。

このように、原告は、本願の異議審査段階で、補正した特許請求の範囲の発明に対する弁駁書を知らされず、(後に審決で違法とされた)拒絶査定の理由通知を受けていず、審判段階でも拒絶理由の通知を受けていず、極めて不利益な扱いを受けているのであります。

しかも、この二つの拒絶理由には、上記の如く、引用例の同じ発明に対して両立しない法29条1項と法29条2項が適用されているのであります。

従って、引用例(実公昭40-595号=甲第9号証)についての特許法第29条第2項を理由とする拒絶理由通知欠如(特許法第159条第2項・同法50条違反)の主張に対し、理由不備(民事訴訟法第395条第1項6号)、審理不尽があり判決に影響を及ぼすこと明らかな違法(民事訴訟法第394条)があり、原判決は破棄されるべきであります。

第8点(憲法第82条第1項違反。審理不尽。)

特許法は第一審を高等裁判所としながら、準備手続の終結処分に対する異議申立てに対する却下決定に対し、抗告を許していないのに、原審が準備手続の終結処分に対する原告の異議申立てを却下決定し、かつ口頭弁論でも充分な事実審理をしなかったのは、審理不尽であり、かつ憲法第82条第1項に違反する。

裁判公開原則の憲法第82条第1項のもと、民事訴訟法は非公開の準備手続を認めているが、準備手続は通常、地方裁判所における第一審で実施され、非公開の準備手続における事実審理の結果は、準備手続集結後の公開の口頭弁論に提出されるだけでなく、事実審である第二審高等裁判所において公開の口頭弁論において対審の審理を受けることができる。

しかしながら、特許審決取消訴訟においては、特許法により、事実審が高等裁判所限りで、事実審の第二審が無く、かつ事件は通常、非公開の準備手続に付されている。

従って、独立の抗告が許されなければ、非公開の準備手続における事実の審理が不十分である場合において、当事者がその非公開の準備手続の終結処分に対する異議申立てに対し却下決定されれば、

事件の中核の事実の実質的審理は、一回限りの事実審における非公開の準備手続における不充分な審理に限られてしまう危険がある。

準備手続における事実審理が十分な審理を受けることが前提にあるからこそ、非公開の準備手続における事実審理の結果の公開の口頭弁論への提出による公開原則実現の制度は憲法第82条第1項の要請に実質的にかない得るのである。

特許審決取消訴訟において、準備手続の終結処分に対する異議申立てに対する却下決定に対し、独立の抗告が許されなければ、

事件の中核の事実の実質的審理は、準備手続の事実審理の結果を改めて事実審である第二審における公開の口頭弁論において審理を受ける機会が無いうえに、非公開の準備手続における審理自体について十分な審理を受け得ない危険がある。そして、そのような十分な審理を受けなかった準備手続の結果が口頭弁論に提出されても、憲法第82条第1項の対審が公開法廷で行われる利益が著しく失われる。

原告は、準備書面(四)31頁23~26行および準備書面(五)41頁28行~43頁11行で、準備手続中に二度に渡り準備手続における「争点の整理の状況」の開示を求めたにもかかわらず、原告は本人訴訟であり特許審決取消訴訟は専門的である故に争点整理が目的である準備手続に付されているのに、どうしても「争点の整理の状況」の開示がなされず、充分な審理がなされなかった。

そこで、準備手続で充分な事実審理が行われ、その充分な事実審理がなされた準備手続結果を口頭弁論へ提出して裁判の対審が公開法廷で行われる利益を実質的に得るために、

原告は、平成5年9月20日付け異議申立書や準備書面(七)の如く、

準備手続で「争点の整理の状況」の開示がなされなかったことや

準備書面(四)における釈明に対する被告回答が被告準備書面(第3回)で明瞭でなく、原告の準備手続裁判官に対する質問に対し該異議申立書及び準備書面(七)の如く、準備手続裁判官が示唆されていた内容(被告回答の内容が原判決に看過があることになるような記載である旨の示唆)と逆の内容の被告の最終的回答がなされた第6回準備手続期日で準備手続が終結処分がなされたこと等の、準備手続における充分な審理を受けていないことを理由に準備手続の終結処分に対する異議申立てをしたが、準備手続は再開されず、平成5年12月7日第1回口頭弁論期日に却下決定され、

準備書面(七)及び補正書(4)の陳述は認められたが、特許法が事実審を一回限りとし、非公開の準備手続を排することなく、準備手続の終結処分に対する異議申立てに対する却下決定に対し、独立の抗告を許していないのに、

当該口頭弁論においても「争点の整理の状況」の開示等はなされず、

結局、原審裁判において、充分な審理がなされなず、

原告は裁判所に原告の主張が理解されているか否かが不明なまま、次回口頭弁論期日判決言渡しとされた。

そして、前記の如く、原判決は、看過の問題ばかりを取上げ、判断の誤りの主張などに判断・理由を示さず、理由齟齬があり、甲第2号証、甲第4号証、甲第9号証等の評価において経験則違反をしている。

従って、釈明権の不行使・釈明義務違反があり(民事訴訟法第127条第1項・第3項、同133条、256条等)、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな審理不尽の違法があり(民事訴訟法第394条)原判決は破棄されるべきであると共に、

更に、原告の公開法廷で裁判の充分な対審を受ける権利、利益が実質的に害されたのであるから、憲法第82条第2項に違背しており、原判決は破棄されるべきである。

以上

別紙イ

〈省略〉

別紙ロ

〈省略〉

別紙ハ

〈省略〉

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